「お姫様抱っこをしたい」
「いきなり何?」
登校途中、ふと思ったことを口に出した結果隣にいる幼馴染のかなめにツッコミを受けることとなった。
「む、そうだな。確かに一発目の一言目から飛ばし過ぎているな。何事も始めが肝心というしな」
「何の話?」
「起承転結の話」
「リョウ、アンタはいつも意味不明だけど今日はいつも以上に意味が分からないわ」
「でへへぇ、それほどでも~」
「褒めてない!」
軽いチョップが飛んできた。この隣にいるJKはすぐに暴力を振るうので大変によろしくない。
「まあそういうところも今となってはかわいく見えるんだけど、な!」
「今度は何!?」
「ぐはっ」
さっきより強めのチョップが飛んできた。これは照れ隠しだろう、maybe。
「そんなことよりお姫様抱っこの話に戻るんですが」
「えっ?ああ、そうだった、のかしら?」
「そうだ」
「ふーん……まあ、アタシは別に?憧れとかないんだけど?」
「おや」
「でもアンタがどうしてもって言うならやらせてあげなくもないっていうか?」
「そのツンデレ構文って使わないといけない義務でもあるんですか?」
「うるさいっ」
「ぐへぇ」
チョップのたびに威力が上がっている。れんぞくぎりかよ。
「全くもう……まあアタシとしてはやらせてあげてもいいわよ。ほ、ほら……一応、恋人だし」
そう、どういうわけか俺とかなめは恋人同士の関係なのだ!
「どういういきさつで付き合うことになったのかはまたその内過去編が公開されます」
「さっきから虚空に向かって話してばかりだけどついに頭でも狂った?」
「失礼な!俺はいつだって異常だ!」
「あーはいはいそうだったわねー……で、どうなのよ?」
「何がでしょうか」
「お姫様抱っこッ!ああもう、すぐに話を逸らさない!」
「そんなにお姫様抱っこがやりたいのか、かなめは」
「……もうやんないわよ」
「大変申し訳ございませんでしたこの私にお姫様抱っこをさせてくださいませ」
そう言って今日も俺のジャンピング土下座が決まる。ちなみにアレ、実際にやろうとすると身体痛めるらしいよ。
「分かったから往来の場で土下座しようとすなっ!頭を上げろっ!」
「痛い、痛いですかなめさん」
「アンタが変なことしなければいいだけでしょーが!」
―――
「という訳であっという間に放課後になりました」
「お邪魔してるわよー」
「既に俺の部屋を我が城と言わんばかりに入り浸ってますね」
「別にいいじゃない、昔からのことなんだし」
「いやもう全く。こいつには友達がいないんじゃないかと」
「アンタよりはいるわっ!」
「なんだとっ!?つまり2人以上は確定しているッ!?」
「それ自分で言ってて悲しくならない?」
「胸を張って友達と言える存在って貴重だと思うんだ」
「そういうとこ真面目よねー、あ、これおいしい」
そう言いながらかなめは俺の持ってきたおやつを食べている。今日は帰りに買ったドーナツだ。
「よく毎回違う味選べるよな」
「アンタはよく毎回同じ味が選べるわよね。飽きないの?」
「気に入ったものをリピートしがちだからなあ。確実性があるというか」
「探求心がないわねえ。もっと色んなもの食べればいいのに」
「かなめがオススメしてくれるから俺はいいかなって」
「ふーん……まあ、そういうことなら」
「ちょろいな」
「ぐーでなぐる!」
「かなめさん?かわいく言っても殴られると痛いんですよ?」
「うるさい、ばーかっ」
……こういうのも傍から見ると恋人同士のじゃれ合いになるのだろうか。
「で、かなめさんや。そろそろ今回の目的をば」
「え?……ああ、お姫様抱っこね。はいはい、準備できたわよ」
かなめがベッドで横になりこっちを見てくる。持ち上げていい合図なのだろう。
「それじゃ、失礼して……よっと」
かなめはそのサバサバした性格とは裏腹に体格は女性らしく全身がむちむちしている。つまり……
「……重いって言った瞬間〇す」
「……!……ッ!」
「無言になってる時点で言っているようなものじゃない!」
「いや、これは俺の腕力<ワンリキー>が人より劣っているからそう感じるからなんだ。STR3なんだ」
「それ箸より重いものが持てないレベルじゃない!さすがに箸よりは重いわ!」
「いやしかしですね。これはなかなかに……ふっ」
何とか体勢を立て直して無事にお姫様抱っこのポーズが完了する。
「……まあ、さっきまでドーナツ食べてから今日はちょっとだけ重たいかもしれない」
「いやこれは明らかにドーナツだけじゃなくて日頃の」
そう言いかけたところですごい剣幕で睨まれたので無言で口を閉ざす。
「うーん、でも案外悪くないわね、これ」
「さいですか」
「たまにならやってあげてもいいわよ」
「いや某は今回ので十分満足したかなーと」
「女の子の憧れだしもっとやってほしくなっちゃったわ!」
「善処させていただきたく……」
「いちいちうるさいわよー、甲斐性なしー」
「と、とりあえず今日はもう終わり!解散だ解散!」
かなめをベッドに戻す。標準より少しだけ重たいJKの身体を軽々持ち上げるには腕の力がもう少しほしいところだ。
「しょうがないわねー、アンタがもっと楽に持ち上げられるようにアタシも……あ、でもアンタ重い方がいいんだっけ」
「はい!(満面の笑み)」
「うわあ……」
「いやしかし、個人の性癖を他人にぶつけるのは大変によろしくないことと言いますか」
「他人じゃなくて恋人でしょーが」
「うぐぅ」
いたずらっぽい笑みを浮かべながらデコピンをされる。
「ちなみにアタシはガリガリより筋肉ついている方が好き」
「よしきたちょっと街中走ってくる」
「だからいちいちやることが極端なのよアンタは!」
「ぐはぁ!」
部屋を飛び出そうとした俺の首根っこを掴まれ、強引に部屋へ戻される。今日も力関係が明確に表された一日なのでした。