かなめ 勉強

「そういえばそんなseasonかあ」
ぼんやりしながら眼前のプリントを見る。そこには「進路希望調査」と書かれていた。
「まあ、まだ受験生じゃないしテキトーでいいか」
幸いにしてまあまあ頭のいい俺は地元にある無難な大学を選択した。
今のところそこまでやりたいことも決まっていないし、学部とかは来年決めよう。
委員長にプリントを雑に渡し、机に突っ伏して俺はそのまま休み時間を終えた。
「ちょっと、アンタ」
「……はっ」
聞きなじみのある声に顔を上げると、そこには俺の幼馴染兼恋人であるかなめがいた。
「いつまで寝てんのよ。もう放課後よ」
「そうか。やはり授業という何もイベントが発生しない出来事は得てしてカットされてしまうのだな」
「今日も意味不明ね」
「そんなに褒めるな、照れるだろ」
「だから褒めてないっつの!この鈍感ポジティブ野郎!」
「暴力は良くないですよ、かなめさん」
「うっさい!」
この恋人、見た目はとてもかわいらしいのだが性格にやや難がある。すぐ暴力を振るうのだ。
「でもまあ、惚れた弱みか」
「ほっ!?いきなり何言ってんの!」
「照れさせても鉄拳が飛んでくるのはいかがなものでしょうか」
「うっさいうっさい!それより話があるんだけど」
「何でしょうか」
「アンタこれから空いているわよね?ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
「また死体の処理か。あれ面倒だから好きじゃないんだよな」
「違うわ!ていうかそんなこと頼んだこと一度もないわ!」
「ふはは、ばーれーたーかー」
「アンタと話してると余計な体力どんどん削られていくんだけど」
「嫌じゃないクセに」
「……うっさい。で、話を戻すんだけど。アタシに勉強を教えなさい」
「ほう、これまた珍しい。俺に教えられる範囲であればいくらでも」
「ありがと。じゃあさっそくアタシの家に行くから」
「恋人の部屋に入るなんて、これからドキドキワクワクなイベントが始まるに違いない!」
「ただの勉強だわ、たわけ!」
などとボケ&ツッコミの応酬をしながらかなめの部屋にあっという間にたどり着いた。
「おじゃましまーす」
「はいはい、パパもママも夜までいないからテキトーに過ごしといて」
「ん」
とはいえ勝手知ったる我が家のように振る舞うのはまだ少し気が引けるのでおとなしくかなめの部屋で座って勉強用具を出しておく。
「しかし相変わらず性格に似合わずガーリーな部屋だなあ」
「聞こえる声で言うなー!」
「後半褒めてるのに」
「前半けなしてたら意味ない!」
ぷんすかしながら飲み物を持ってきたかなめが部屋にやってくる。
「おっ、オレンジジュースだ」
「アンタの好みは良く分かってるからね」
「助かる、あらいぐまラスカル」
「それで今回教えてほしいところなんだけど」
「ボケをスル―された」
「やっぱ数学が難しいのよねー。三角関数とか」
「ほうほう」
かなめが真剣モードに入ったので俺もそれに応えることにする。かなめもこちらの話を真剣に聞いている。かなめのいい香りが俺の顔の前に漂う。
「(……いかん、集中せねば)」
自分の恋人と二人っきりで密室にいるという素晴らしいシチュエーションで何もできないもどかしさをこらえつつかなめに勉強を教えていく。
「……と、まあ基本的なところはこんなもんかな」
「はえー。毎回思うけどアンタ教えるの意外と上手いわよね。先生にでもなったら?」
「教師は何かと大変なイメージがあるから俺に合わないだろう」
「あー、確かに。アンタ根性ないもんねえ」
「今日も恋人からの評価が厳しい俺です」
「あははっ、でもそれでいいのよ。そこはアタシが引っ張っていくから」
「そいつぁ頼もしいや」
「だからこういうところで頼りになればいいのよ、アンタは」
「あ、どうも恐縮です……」
「ちょっと何マジで照れてんのよ!」
「いや、かなめからそういうこと言われるのあんまりないから」
「悪かったわね!」
かなめの方も顔が赤くなっており、お互いにまっかっかだ。甘酸っぱい青春の風が吹いている。
「うううーっ、えいっ」
「おわっ」
そしてその雰囲気に耐え切れなくなったかなめが俺に飛びついてくる。
「かなめさん、急に何を」
「こうすればアタシの顔見れないでしょ!」
「だからと言って目の前の相手に飛びつくのは短絡的というか、なんというか」
目の前にあるのはかなめの頭だ。とても撫でやすい位置にある。
「あ」
気がつけば手がかなめの頭に移動してしまっていた。これは鉄拳制裁が飛んできそうだ。ゲームセットだ。
「……」
しかし撫でられているかなめさんは動こうとしない。
「あのー、かなめさん?」
「何よ、口を動かす暇があったら手を動かしなさいよ」
「……私に撫でろと命じられるので?」
「皆まで言わせないの!」
どうやらお許しをいただいたようだ。耳が赤くなっているかなめは大変にかわいらしいが、そのことを指摘すると今度こそ鉄拳制裁が飛んでくるので、おとなしく撫でる。
「~♪」
何やらご機嫌になったのか鳴き声が漏れている。そのまましばらく撫で続けた。
「ふうっ、満足したわ」
「さいですか」
「アンタはあまり満足してなさそうだけど」
「いやいやそんなことは。今日も俺の恋人のかわいいところが見れて良かったですよ?」
「……そういうこと真っすぐに言うの、なんかずるい」
「ふはは。そういやなんでまた急に勉強教えてほしいだなんて言ったんだ?」
「ええっと、それは……」
「……まさか」
「別にいいじゃない!一緒の大学行ったら今よりもっと楽しそうだなんて思っていないんだからねっ!」
「まだ何も言ってませんが」
「はっ!ハメたわね!?」
「ハメてません。そして一緒の大学に行ったら楽しそうというのは俺も同意見です」
「こういう時に限ってニヤニヤするな変態!」
「ありがとうございます!」
「変態って言われて喜ぶな変態ー!」
今日もきゃんきゃん騒ぐ恋人が最高にかわいいなと思いました。また勉強を教えよう、お互いの為にも。