さよならのあと 第四話

早朝、ヨウくんが起きる前。私は空を飛びまわっていた。
ヨウくんの寿命はあと一日。やれることは少ない。それでも”あいつ”だけは必ず見つけておかないといけない。それが、きっと私が幽霊としてこの世に残っている理由だから。
私は今日もしらみつぶしに”あいつ”が行きそうなところを探していた。

―――――

「ということで本日は手紙を書いてもらいます!」
「手紙……?」
四日目の朝。毎度のことながらサクラの発言は唐突で突飛なものだった。
「そう、手紙」
「誰宛てに送るんですか?」
「なんと!ファンのみんなです!」
「……まあ、そんな気はしていました」
家族、同業者ときて次はファンのみんなか。
「ふーりんにも協力してもらうから、キミは手紙を書くだけでいいよ」
「書くだけ、とは言いますけど……そんな単純な問題ではないような……」
「どうして?」
「だって僕が書くと……」
そう言って試しにそこら辺にある手紙に数行書いてみる。そこには明らかにサクラの字ではない筆跡で書かれた文字が並んでいた。
「あー、確かに私が書いたことにはならないか。じゃあ、私の筆跡に合わせて書いてくれるかな?」
「とんでもないことをサラッと言い出すのやめてもらえませんか!?」
「えー、いいじゃん。それくらいできるでしょう?」
「簡単に言ってくれるなあ……」
「もう時間がないの。お願い」
サクラは声のトーンを少し落として真剣にお願いしてきた。それだけ本気なのだろう。
「……分かりましたよ。可能な限りやってみます」
「ありがとう!さっすがヨウくん!」
「まあ、推しからお願いされて断れる人なんていませんからね」
「そんなことないよ。これはキミだから引き受けてくれたと思っているよ」
「……じゃあ、そういうことにしておきましょうか」
今更だけど、サクラは天然で人たらしの性質があると思う。

「うーん、文字の細かい部分まで似せるのは簡単じゃないな」
サクラのことを応援していた時に便箋を何枚も買っていたのが功を奏し、書き直しは何回でもできる状態だ。
「おお、いい感じだね。”の”の書き方とか私そっくりになってきた」
「何度も見てきている字ではありますからね」
サクラはアイドルの頃に直筆の手紙を書いて公開するのが好きで、定期的にファンクラブのサイトに上がっているのを読んでいた。
僕は時間の許す限り何度も手紙を書き直して、ようやくサクラが納得いく出来の手紙を書き上げた。

数時間後、僕たちは生放送がある会場へと訪れていた。多くのアイドルが登場する番組で、観客席も多く取られている。
「さすがにここはさくらっことして聞きたいだろうから、キミには客席にいてもらおう」
「……ありがとうございます」
サクラに気遣ってもらった僕はフウカさんに手紙を渡し、席へと向かう。そこには既に多くの人がいた。さくらっこの人たちもたくさんおり、賑わっている。
「おにいちゃん!」
「あっ、ミカちゃん。こんにちは」
小学生の女の子に声をかけられた。彼女は僕と同じさくらっこだ。以前、道に迷っているところを僕が助けたことがあり、そこからは会場で会う度に軽くお話をしている。
「ミカちゃん、今日は……その……」
「うん。ちゃんとサクラちゃんとお別れしに来たの」
「……そっか」
「ミカ、すっごく悲しかったけど、サクラちゃんはもっと悲しいと思うの。だから、ちゃんとお別れするの」
「……ミカちゃんは強いね。僕はまだ受け入れられていないから。これから先、どうすればいいのか分からないよ」
「ヨウおにいちゃんはやさしいから、これからも色んな人にやさしくすればいいと思う」
「そっか。ありがとう、ミカちゃん」
「ん」
ミカちゃんは大人びた小学生だけど、よく見ると目が腫れていた。きっと何度も涙を流して今日ここにいるのだろう。僕もしっかりしないと。

―――――

私は舞台裏でふーりんと生放送が始まるのを待っていた。
「これ本当にアイツが書いたの?ぱっと見じゃ全然分からないわよ」
「ふふん。すごいでしょ」
「なんでアンタが威張っているのよ……ていうか、アンタ、アイツに言ってないでしょ。この手紙の本当の目的」
「まあね。この生放送が終わったら言うつもりだけど」
「……どういう結果に転んでも、{サクラのフルネーム}というアイドルをアタシは忘れないから。それだけは覚えておいて」
「ん、ありがと」
それだけ言って、ふーりんは舞台へ上がっていった。

―――――

「今日はサクラからもらった手紙があるので、読み上げさせていただきます」
ひとしきり歌い終わった後、フウカさんが手紙の読み上げを始める。
手紙の文を入力

手紙の文を入力

手紙の文を入力
周りから嗚咽が聞こえ始めてきた。
「家族のみんな、仕事仲間のみんな、ファンのみんな、そして……最後まで愛してくれた・・・・・・マネージャー。ありがとう。みんな、大好きです」
読み上げが終わった後、しばらく拍手が鳴り止まなかった。

帰り道を僕とサクラで歩いていた。明日で僕は死ぬらしいし、こんな時間を過ごすのも残りわずかとなった。しかしサクラも家族や仕事仲間、ファンの人たちに想いを伝えることができたし、もう僕の使命は果たしたと言っていいだろう。
「これでもう、心残りはありませんか」
確認するように僕は尋ねた。
「うん!……って言いたいところなんだけど、実はもう一人いるんだ」
「誰でしょうか」
「えっとね、ヨウくん。これは最後のお願いなんだけど」
サクラは一つ深呼吸をすると、とんでもないことを言い出した。

「―――殺してほしい人がいるの」