シロ 屋上

大学の一角にある建物の屋上。
誰が使っているのか目的が分からないと専らの評判だ。
そんな屋上に、特定の曜日の特定の時間帯になると、ある人物がいる。
「……いや、そんな大層な人でもないか」
思い直して僕は屋上への扉を開ける。
「やあ、久しぶりだね」
「三日ぶりだからそんな久しぶりってほどでもないと思うんですが」
「時間にすると72時間。そう置き換えると長くないか?」
「睡眠時間も換算すると体感50時間程度なのでそれは盛り過ぎじゃないですか?」
「参ったな、これは一本取られたよ。今回はキミの勝ちだ」
「あなたとレスバをしているつもりはないんですが、シロ先輩」
「ふふっ、違いない」
空きコマの暇つぶしに大学内をうろついていたところ、たまたま見つけた屋上に入った時に会ったのがこの変人、シロ先輩。
初対面の時、白井だからシロと呼んでほしいと言われたのが数か月前。
そこから僕たちはお互いの空きコマが一致した時に屋上で集まるようになった。
「しかし今日は普段より3分17秒くらい遅かったね。お腹でも痛かったのかい」
「教授の講義が伸びただけです」
「キミはいつでも冷静にレスポンスを返してくれるね、クロくん」
僕の名字が黒木だから、クロくん。それがシロ先輩の決めたあだ名だった。
随分と安直な付け方だが、あだ名をつけられたのは人生で初めてだからあまり嫌な気分はしない。
「そういうシロ先輩こそ今日は一限サボってないですか」
「もちろん。バッチリ出席したとも」
「それならいいんですけど」
「キミは随分と私の出席具合を気にするんだな」
「そりゃあ授業サボって単位落として留年とかなったら、大学来た意味ないじゃないですか」
「留年したらキミと同じ学年になれる」
「バカなこと言ってないでちゃんと出席してください」
「相変わらず手厳しいな、キミは」
「ていうか、冗談でしょう」
「ふふっ、どうだろうね」
シロ先輩は今日も不敵に微笑んでいる。本人曰くフレンドリーな笑顔らしいが、どう見ても裏があるようにしか見えない。
「さて、今日は何をしようか。ドラクエ9?マリパDS?それとも、ダ・イ・パ?」
「なんでチョイスがどれもDSなんですか」
「いいだろう、DS。携帯ゲーム機の代名詞だ」
「今はSwitchですって」
そう呆れながらも懐からDSを取り出してしまう辺り、僕もこの人に毒されているのかもしれない。
「さて今日はどんなルールで遊ぼうか」
「じゃあ、だいしつげんで捕まえたポケモン縛り対戦で」
「技の思い出しや技マシンの使用は?」
「ナシで」
「ダブルスロットは?」
「いいっすよ」
「いいだろう、一発勝負だ」
「じゃあ始めますね」
「今回は勝たせてもらうよ」
「毎回どこからその自信が出てくるんですか……」

~数十分後~

「おかしい、何故勝てないんだ」
「かげぶんしんに頼らないでください、陰湿です」
「何を言う、ポケモンは確率のゲームだ。キミもそう思うだろう?」
「否定はしませんが肯定もしたくないです」
「なるほど、いわゆるツンデレか」
「違います」
「しかし今日も有意義な時間を過ごせた。キミのおかげだ」
「……どうも」
真っすぐな目でお礼を言うのはやめてほしい。そんな特別なことはしていないのに。
「どうして先輩はDSのゲームをよく遊んでいるんですか?」
「うん?一番思い入れがあるからさ」
「シンプルな理由だった」
「今のゲームも好きではあるんだがね。定期的に遊びたくなる」
「まあ、気持ちはちょっと分かります」
僕もDSは相当やり込んでいた。ただ、友達と一緒に遊ぶような経験は今までなかったから斬新だ。
「それに……」
「それに?」
「私はDSを遊んでいた頃、友達は誰もゲームをやっていなくてね。だからこういう経験は新鮮なんだよ」
「……」
驚いた。まさか先輩も僕と同じことを思っていただなんて。
「どうした?クロくん」
「あ、いや、何でもないです」
僕も同じ気持ちです、だなんて言うのはこの先輩相手だとちょっと腹が立つというか、釈然としない。だから僕は何でも思っていないフリをする。
「ふんふん、なるほど」
「……何ですか」
「今のキミの態度を見て全てを分かったようなフリをしたのさ」
「フリなんですか……」
「そうだ。私に他人の気持ちを読む力はないんだよ」
「……どうだか」
全てを見透かすような表情をしているシロ先輩。
その表情に隠された真意を僕が知るのは、まだまだ先のことになる。