「サクラさん!しっかり!」
「あはは……ヨウくん、怪我はない?」
「そんなことを言っている場合ですか!」
そこでようやく、サクラが半透明になっていることに気づいた。
「あちゃー。もう時間切れみたいだね」
「時間切れって……どういうことですか!?」
「そのまんまの意味だよ。天に還る時間って意味」
「そんな……」
「このまま消えるのも悪くないけど、どうせなら最後まであがきたいな。ヨウくん、私についてきて」
そう言い終わらないうちにサクラが突然加速する。僕は慌ててついていく。
しばらく走った先にあったのは小さな公園だった。
「駆け出しの頃、よくここで練習してたんだよね。ちょうど近くにあるのを思い出して、来ちゃった」
そう話すサクラの姿はより一層透明になっており、もはやいつ消えてもおかしくない状態だった。
「実はね、キミに嘘をついていたことがあるんだ。私、本当は死神じゃないの」
「……知ってます。あなたは死神じゃない。トップアイドルのサクラです」
「そうなんだけど!そうじゃないというか……」
歯切れの悪そうな物言いをした後、サクラが姿勢を正し向き合った。
「キミが本来なら今日死ぬことは本当だった。でもそれが嫌で、私が嘘にしちゃったんだけどね」
「じゃあ……僕を生かすことが本当の願いだった……ってことですか?」
「そういうこと」
「どうして……」
僕はただのファンの一人だ。そもそもサクラが僕の顔を覚えていたかも定かではない。
「だってキミは見ず知らずの人を何の見返りもなく助ける、優しい心を持っている人だから。私、たまたま見てたんだよね、キミが女の子を助けていたところ」
「えっ?」
「今時珍しいなって思って見てたら私のグッズつけてたから、それで覚えちゃって。そこからは現地で会う時にこっそり探してたりもしたっけ」
「……」
明かされた事実に対して嬉しさと驚きと困惑が混ざり、感情の濁流となって僕の脳をかき乱す。
「だから、自分が死んだときに何となくキミのことが頭に思い浮かんじゃって。気がついたら幽霊になっていたんだよね。しかも、まさかキミが後を追おうとしているし、びっくりしちゃった」
「……ごめんなさい」
「そこは謝るところじゃないぞー。こっちとしては私の心残りも昇華してくれたし、キミを救うこともできた。今度こそ、思い残すことはないよ」
「サクラさん、でも僕は―――」
「もう大丈夫でしょう?キミはここ数日で色んな人に会って、もう私の後を追うような人じゃなくなったって、私は確信しているよ」
サクラはウインクして僕に言ってみせた。最後まで僕はこの人に敵いそうにない。
「じゃあ、最後に一つだけ、お願いを言ってもいいですか」
「もちろん。私にできることならね」
「一曲、歌ってください。僕はどこまでいってもあなたのファンなので」
「お安い御用!じゃあ、キミだけに贈るサクラのラストステージ、聞いていってね」
サクラが少し浮かび、歌い出した。
「~♪」
何度も聞いた歌声が、今は自分だけに向けられている。
「~♪」
もうほとんど姿は透明で見えなくなっても、歌声は力強く続いている。
「~♪」
歌い終わる頃にはすっかり姿は見えなくなった。
「……ありがとう」
その一言を最後に、声も聞こえなくなった。
さよならのあと 第六話
小説